「宗教団体に何億円も寄付をさせられた」というニュースがあったりしたので、そう思う人もきっといますよね。
キリスト教会での寄付は、絶対に強制されるものではありません。寄付は「献金(けんきん)」と呼ばれることもありますが、これはあくまで「感謝の気持ちを表したいな」と思った人が、自分ができる範囲で自由にするものです。まともな教会であれば、献金をしなさいとか、たくさんしなさい、なんてことは言いません。
あなたがもし教会を訪れたことがあり、その静かで落ち着いた雰囲気をいいなと思ったり、集会の内容を気に入ったりしたのであれば、そうした建物をきれいに保ったり、電気や水道を使ったり、オルガンやピアノなど集会に必要なものを整えたり、牧師さんや神父さんの生活を支えたりするために献金が役立っています。まったくお金を集めなかったら、そんな居心地のいい雰囲気は保てませんよね。でもそれはみんなの「ありがとう」「ほかの人の役に立ちたい」の気持ちで成り立っているんです。だから「今はちょっと寄付する気になれないな」と思うときは、無理してお金を出す必要はまったくありません。
ただ、お金についての考え方は、同じキリスト教でも教会によってかなり違います。もし教会に行ってみて「献金しましょう」としつこく言われたり、あなたが疑問に思うほどしょっちゅうお金の話ばかりする教会だった場合、その教会に無理して通う必要はありません。ほかにもたくさんの教会がありますので、あなたが納得できるお金の集め方や使い方をしている教会を探してみてくださいね。
教会とお金の実際
ほとんどのキリスト教会では、日曜日の礼拝・ミサなどの集会で「献金」の時間があります。集金用の布袋やカゴ、お盆などが参加者席に回ってきます。参加者の手から手へ渡していく教会もあれば、お金を入れる入れ物を集金係の人が一人ひとりの目の前に差し出す教会もあります。
初めて献金の時間に参加すると、「いくら入れればいいんだろう?」「絶対に払わなければいけないんだろうか?」と不安になるかもしれませんね。でも、隣の人から入れ物が回ってきても、そのまま何も入れずに次の人に渡してしまってかまいません。集金係の人が入れ物を目の前に差し出してきても、軽く一礼すればスルーしてくれることがほとんどです。
最近では「初めてこの教会に来た人は、献金しないでください」とアナウンスする教会も増えました。教会を運営していくにはお金が必要ですが、その大部分は自覚的に教会のメンバーになった人たちから集めています。ゲストから何とかして少しでもお金を取ろうとする教会は本来あり得ないと思っていただいてかまいません。
ただ現実的には、教会の活動は資金なしにはできません。あなたが教会を訪れた時に、空調の効いた建物、掃除の行き届いた室内、きれいに使用できるトイレ、適切な音響設備、教会スタッフの対応に少しでも居心地の良さを感じたのでしたら、献金にご協力いただければ幸いです。最低金額の決まりや定額はありませんので、1円からで結構です。「投げ銭」「お賽銭」の感覚で大丈夫です。
教会の正式なメンバーになった場合にどれくらいの献金を求められるかは教会によっていろいろです。カトリック教会は世帯主に各自の月収入の1-3%を目安にして「教会維持費献金」を呼びかけています。当然ながら年金生活者、生活困窮者の中にはそれでも厳しい人がいますので、義務として課しているわけではありません。払わなかったからといって教会を除名になるわけではありませんし、支払い能力がなければ教会のメンバーになれないということではありません。あくまで自発的な献金の目安として掲げているだけです。
プロテスタントの場合、宗派や教会によりますが、教会がメンバーに呼びかける献金の額がカトリックより高いことがあります。これは、カトリックが全世界で一つのピラミッド型の組織を持ち、会計も地域や国などの広い単位で管理・配分しているのに対し、プロテスタントは(宗派によりますが)多くの場合、街角の教会ごとに独立採算で運営されているためです。そのため、他の教会や外部からの経済的援助を期待できず、メンバーが少ない教会は一人一人の会員に多めの負担を頼まざるを得ない場合があるのです。
カトリック、プロテスタントを問わず、献金をすることはクリスチャンになる条件ではありません。教会には決まった額の入会金や会費はありませんし、献金ができないからといって信仰を問われることはありません。生活保護受給者やホームレスの人など、献金をするのが明らかに難しい人でも、心から神を信じるならば誰でもクリスチャンになることができます。
カトリックでもプロテスタントでも、その時々の必要に応じて目的別に献金を募ることがあります。たとえば、教会の土地の購入や建物の建築・維持管理、さらには災害時の対外援助など、まとまった資金が必要な際に別途呼びかけが行われます。ただし、これらの献金はほとんどの場合、教会のメンバーを呼びかけの対象としています。そのため、初めて教会に来た方や一時的に訪れた方が協力する必要はありません。(もちろんあなたが献金の趣旨に賛同するのであれば、少額でも協力していただければ幸いです)
また、教会が地元の人々や地域社会に(たとえば幼稚園や福祉活動の運営を通じて)広く受け入れられている場合、礼拝堂の改築やその他のプロジェクトの際に、近隣の住民や団体から積極的な支援を得ることもあります。このような場合には、クリスチャンではない方々も教会の活動に親しみを感じ、協力を申し出てくれることがあります。
なお最も高額な部類としては、プロテスタントでは「収入の10分の1を献金してください」と呼びかける教会が少なからず見られます。当然ながら経済的に余裕のない人には無理な要求ですので、実際にはこの呼びかけが形骸化していることも少なくありません。教会側ももちろん現実を認識していますので、たとえ10分の1献金をお願いする場合でも「できれば」「無理でなければ」などと条件つきで呼びかける教会が多いです。たとえ教会員であっても、応じなかったからといってペナルティーがあるわけではありません。こうした呼びかけをする教会でも、会員一人一人の収入状況まで細かくたずねたりはしませんし、献金額からその人の収入を推測したりはしませんので、呼びかけはあくまで目安にすぎません。
ごくまれなケースですが、教会によっては、経済的に厳しい状況にある人、たとえば大学生などに対してまでも月収を聞き出し「アルバイトや仕送り・小遣いの10分の1を献金しなければならない」と強い口調で教えるところがあります。こうした集金のやり方に違和感を持つ場合は、そのような教会に無理をして通う必要はありません。自分に合った献金の考え方や運営方針を持つ教会を改めて探すことをおすすめします。
なお、教会の会計報告については、宗教法人格のある教会であれば所轄官庁に報告する義務があるほか、教会内の掲示板で公開し、誰でも見られるようにしているところも多く見られます。外部の人から請求された場合でも、教会のメンバーに公開している範囲の会計情報(大まかな収支報告書や財産目録など)であれば、誰にでも開示する教会がほとんどです(当然ですが、誰がいくら献金しているといった詳細なことがらは個人情報に関わるため、開示しない場合があります)。もし会計情報の開示を理由もなくかたくなに拒否する教会があれば、あなたがその教会に疑問を持つのは当然でしょう。そのような場合には慎重に判断していただければと思います。
